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札幌地方裁判所 昭和35年(行)5号 判決 1963年4月09日

原告 杉岡友二

被告 北海道知事

補助参加人 佐々木孫次郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が札幌郡広島村字大曲六〇一番地(旧八七番地)一、山林八反八畝八歩の土地につき、昭和二三年九月二五日付でなした買収処分は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

原告訴訟代理人は、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告は昭和二〇年七月三〇日以降本件土地を所有していたところ、

被告は昭和二三年九月二五日、右土地につき、自作農創設特別措置法四〇条の二により買収令書を発し、補助参加人佐々木孫次郎に対し、昭和二五年四月一〇日受附番号第三七九号をもつて売渡の移転登記手続をなした。

二、しかし右買収処分は、次に述べる重大かつ明白なかしをおびるから、当然無効である。

(イ)  原告は本件土地を補助参加人を含め、いまだかつて誰れにも小作させたことはなく、また補助参加人が事実上使用していたこともない。

(ロ)  原告は買収令書および買収の対価をいずれも受領していない。

よつて、原告は本件土地の買収処分が無効であることの確認を求めるべく本訴におよんだ。

被告の本案前の抗弁に対し、

補助参加人が本件土地を占有するはじめにおいて無過失であつたとの点は否認するが、その余の事実は認める。

被告指定代理人は、次のとおり、陳述した。

本案前の抗弁として、

原告は本件買収処分の無効確認を求める訴の利益を有しないから、本訴は却下されるべきものである。すなわち、補助参加人は、本件土地を、昭和二四年九月上旬、国から売渡通知をうけて以来一〇年間、所有の意思をもつて平穏・公然かつ善意・無過失に占有していたから、昭和三四年九月末日までには取得時効が完成している。そして補助参加人は本訴において時効の援用をしているから、同人は本件土地所有権を取得した。よつて、原告は本件土地を所有するものではなく、本件買収処分の無効確認を求める訴の利益を有しない。

本案の弁論として、

原告の請求の原因事実中一、は認める、二、は否認する。

補助参加訴訟代理人は本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなされる補助参加申立書には次のごとき記載がなされている。

本件土地は、補助参加人が、昭和二三年七月二日を売渡の時期として、昭和二四年九月上旬、国より売渡通知をうけ、その時より所有の意思をもつて平穏・公然かつ善意・無過失に占有を継続したものであるから、一〇年を経過した昭和三四年九月末日をもつて取得時効が完成している。そして補助参加人は本訴において右時効の援用をしたので、右日時に取得時効により本件土地の所有権を取得した。

(証拠省略)

理由

まず本案前の抗弁について判断する。

被告は、原告が本件買収処分当時本件土地の所有者であつたとしても、その後補助参加人の取得時効の完成により右所有権を喪失し、現在本件土地の所有者ではないから、もはや右買収処分自体の無効確認を求める利益を有しない旨主張する。

しかし、原告は本訴において、右買収処分の無効であることの確認を得ることにより、処分庁である被告または権利の帰属主体である国に対し、原状回復ないしは損害賠償の責任を追及しうるという法律上の利益を有するにいたるのであつて、右利益は、補助参加人の取得時効の完成により原告が本件土地の所有権を失つたという法律関係の存否とは別に認められるものである。したがつて、原告は本訴によつて行政処分の表見的存在を除去する利益を有するものといわなければならず、被告の本案前の抗弁は採用することができない。

次に本案について判断する。

原告が昭和二〇年七月三〇日以降本件土地を所有していたところ、被告が昭和二三年九月二五日、右土地につき自作農創設特別措置法四〇条の二により買収令書を発し、補助参加人に対し、昭和二五年四月一〇日、売渡の移転登記手続を了したことは当事者間に争いがない。

そこで、右表見的に存在する買収処分に原告主張のような重大かつ明白なかしが存するか否かについて案ずるに、証人杉岡満千代ならびに原告本人(第一、二回)は、原告が本件土地を補助参加人に小作させたことはもちろん事実上使用させたこともなく、また、本件土地の買収令書・買収対価を原告は受領していないと、原告主張にそう旨の各供述をするが、証人佐々木孫次郎・同服部品太の各証言によると、原告は戦時中本件土地をその周辺の土地とともに疎開用として、訴外服部品太より買受け、以前女中として原告家につかえていた訴外佐々木孫次郎の妻および孫次郎を疎開荷物の番人として右疎開地内の家屋に住まわせるとともに、右孫次郎に指示して、これらの土地全部を、畑地は耕作させ、本件土地を含めて山林原野は家畜を飼育してその採草放牧地として使用させていたこと、孫次郎は小作料に相当するものとして、当時は食糧難であつたため、原告の求めに応じて豆、きび等を提供し、かつ、地租税を原告にかわつて支払つていたことが、認められ、右認定に反する前掲杉岡満千代の証言ならびに原告本人尋問の結果は、右服部・佐々木の各証言と対比してたやすく信用しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はみあたらない。原告本人の供述の一部(第一、二回共)並びに弁論の全趣旨により、真正に成立したものと認められる乙第一ないし第三号証によると、原告は、昭和二四年二月一〇日、買収令書を受領し、同年九月一四日、訴外北海道拓殖銀行を代理人として、金二九七円六四銭の買収対価を受領していることが認められる。もつとも、証人杉岡満千代および原告本人は、昭和二四年当時原告は重症の肺結核のため病臥したままではあつたが郵便物にはすべて目を通しており、そのなかに北海道庁よりきた買収令書はなかつたと供述するが、証人小神朗の証言によれば、買収令書は地元の農業委員会を経由して交付されるものであるから、右供述は買収令書不受領を推認するものとは言い難く、また買収令書受領証(乙第一号証)・買収対価受領委任状(乙第二号証)・買収対価受領証(乙第三号証)の杉岡という印影が、いずれも原告の実印によるものではなく、右委任状の杉岡友二とある署名が原告の手によるものではなく、また右各書面はいずれもみたことがないという原告本人の供述は、同人が、当時、安静度一度という重篤な病状であつたため、妻や番頭はじめ使用人が、原告にかわつて仕事のきりもりをしていたことおよび、原告方では各種の認印を混用していたことから、原告が買収令書ならびに買収対価を受領しなかつたということを積極的に裏付けるものとは断定しがたく、他に前記認定を左右するに足りる証拠はみあたらない。

してみると、原告の主張する本件土地買収処分を無効とする事由は、いずれもこれを肯認しがたく、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 本井巽 花田政道 今枝孟)

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